「歯科衛生士の年収は、経験年数を重ねれば上がっていくもの」
そう思われがちですが、実は経験年数以上に「どこで働くか」によって年収は大きく変わります。
この記事では、日本歯科衛生士会が令和7年3月に公表した最新の勤務実態調査(令和6年調査・第10回)をもとに、年収データを確実に確認できた4つの勤務先タイプを比較します。
結論:年収の伸びしろが大きいのは「行政」「教育機関」
最新データを比較すると、400万円以上の層が最も厚いのは「病院・大学病院」と「歯科衛生士教育養成機関」という結果になりました。一方で、最も身近な「歯科医院(診療所)」は、130〜300万円未満の層が前回調査より減り、300〜400万円未満の層が増える形で、全体的にはやや底上げされています。
| 勤務先 | 130〜300万円未満 | 300〜400万円未満 | 400〜500万円未満 |
|---|---|---|---|
| 診療所(歯科医院) | 24.3%(前回40.1%) | 41.1%(前回38.7%) | ― |
| 病院・大学病院 | ― | 32.9%(前回33.3%) | 21.5%(前回20.1%) |
| 行政(保健所・市区町村等) | 27.8%(前回25.4%) | 16.9%(前回18.2%) | ― |
| 歯科衛生士教育養成機関 | ― | 26.3%(前回32.1%) | 23.4%(前回21.5%) |
※「―」は本記事執筆時点で数値を確実に確認できなかった項目です。全体の年収分布や、他の勤務先タイプについては次の章で詳しく解説します。
歯科衛生士の勤務先、実際の分布
歯科衛生士が活躍する場は、歯科医院だけではありません。日本歯科衛生士会の調査(令和7年3月・回答者4,926人)によると、就業している歯科衛生士の勤務先の内訳は次のとおりです。
| 勤務先 | 割合 |
|---|---|
| 診療所(歯科医院) | 43.0% |
| 病院・大学病院 | 17.4% |
| 行政(保健所・市区町村等) | 12.9% |
| 歯科衛生士教育養成機関 | 8.0% |
| 介護保険施設等 | 4.5% |
| 障害者歯科診療所等 | 3.1% |
| その他(企業・研究機関・社会福祉施設等) | 合計約11.1% |
こうして見ると、歯科医院で働く歯科衛生士が全体の4割強を占める一方、企業や研究機関、社会福祉施設などで働く人はごく少数であることが分かります。求人の絶対数が少ない勤務先ほど、狙って入るのが難しいという傾向は、この分布からも読み取れます。
なお、常勤の歯科衛生士としての年収(全体)は、「300万円以上400万円未満」が34.3%で最も多く、「130万円以上300万円未満」が20.8%、「400万円以上500万円未満」が19.7%、「500万円以上600万円未満」が10.7%と続きます。500万円を超える層は全体の約2割です。
4タイプの仕事内容と年収の傾向
診療所(歯科医院)
むし歯や歯周病の予防処置、歯科医師の処置補助が中心です。最も求人数が多く、身近な勤務先です。僕自身もこの歯科医院での勤務です。年収は「300万円以上400万円未満」が41.1%と最多で、前回調査より「130〜300万円未満」の層が減り、全体的に底上げされている傾向が見られます。
病院・大学病院
歯科医院では対応が難しい抜歯処置の補助や、口腔内の腫瘍・外傷治療の補助などを行います。口腔外科や生活習慣病、感染症など、歯科以外の知識も求められます。「400万円以上500万円未満」の層が21.5%と、4タイプの中では比較的年収の伸びしろが見える結果でした。
行政(保健所・市区町村等)
地域住民の歯科保健指導が中心です。市役所・区役所・町村役場での勤務が最も多く、次いで市町村・特別区保健センターとなっています。多くの場合、地方公務員として採用されます。年収は「130万円以上300万円未満」が27.8%とやや広く分布しており、非常勤での勤務者が多いことも影響していると考えられます。
歯科衛生士教育養成機関
歯科衛生士養成校の教員として、後進の指導にあたります。「400万円以上500万円未満」が23.4%と、4タイプの中でも年収の伸びしろが見える結果でした。専任教員としての実務経験や、全国歯科衛生士教育協議会の認定取得が求められることが多い分野です。
この4タイプ以外にも、障害者歯科診療所、介護保険施設、企業(商品開発・営業等)などで働く歯科衛生士もいますが、これらは全体に占める割合が数%程度と少なく、本記事執筆時点では年収の詳細データを確実な数値として確認できていません。今後、確認でき次第この記事に追記していく予定です。
現役歯科衛生士の僕が思うこと
ここまで勤務先タイプを紹介してきましたが、正直に言うと、僕自身の周りで実際に歯科医院以外へ転職した人はほとんどいません。周囲もほぼ一般の歯科医院勤務で、一般企業への転職を経験した僕自身も含めて、この記事で紹介したタイプの中で経験があるのは診療所だけです。
ただ、身近な範囲でよく見かけるのは、勤務先そのものを変えるのではなく、一般の歯科医院に勤めながら専門性を磨いていくケースです。実際に僕の周りにも、矯正歯科やインプラント専門の医院で働いている歯科衛生士や、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の資格を持って働いている歯科衛生士がいます。資格の種類については、こちらの記事でも紹介しています。
また、歯科衛生士は国家資格に年齢制限がないからこそ、50代・60代になったタイミングで訪問歯科に挑戦する、という将来の選択肢も個人的には考えています。今すぐの話ではありませんが、長く働き続けられる資格だからこそ、その時々のライフステージに合った勤務先を選べるのは、歯科衛生士という仕事の魅力の一つだと思っています。
年収だけで選ぶのは注意が必要
データだけを見ると「病院や教育機関を目指した方がいいのでは」と思うかもしれません。ただし、これらの勤務先で働く歯科衛生士は全体の一部にとどまり、臨床経験や専門知識、教員としての実務経験が求められるケースも多いのが実情です。
歯科医院は年収の伸びしろが比較的小さく見えるデータですが、自費診療やインセンティブ制度のある医院を選べば、この分布以上の年収を目指すことも可能です。実際に僕自身も、自費診療を担当するようになったことで賞与が大きく伸びた経験があります。
経験年数による年収の変化については、こちらの記事も参考にしてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 保健所勤務は公務員になりますか?
A. 多くの場合、地方公務員として採用されます。採用試験の実施や募集人数は自治体によって異なります。
Q. 歯科医院勤務でも年収500万円は目指せますか?
A. データ上は多数派ではありませんが、自費診療の割合が高い医院やインセンティブ制度のある医院、役職に就くことなどで目指せる水準になります。
Q. 歯科衛生士教育養成機関の教員になるにはどうすればいいですか?
A. 実務経験に加え、全国歯科衛生士教育協議会が認定する専任教員資格の取得が一般的に求められます。学校によって条件は異なります。
Q. 病院・大学病院で働くには特別な資格が必要ですか?
A. 必須ではありませんが、口腔外科や周術期口腔機能管理など、歯科医院とは異なる専門知識が求められる場面が多くあります。
Q. 転職すると年収は必ず上がりますか?
A. 一概には言えません。勤務先タイプだけでなく、医院や施設ごとの制度・待遇によっても大きく変わるため、求人内容をよく確認することをおすすめします。
まとめ
- 年収は経験年数以上に、勤務先タイプによって差が出る
- 病院・大学病院、歯科衛生士教育養成機関は400万円以上の層が比較的厚い
- 歯科医院は求人数が多く身近だが、年収は300〜400万円台が中心
- 企業や研究機関等で働く歯科衛生士はごく少数で、狙って入るのは狭き門
- 歯科医院でも自費診療やインセンティブ制度次第で年収は伸ばせる
勤務先によって求められるスキルや働き方も大きく異なります。年収だけでなく、自分がどんな働き方をしたいかも含めて、勤務先選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。




