「円満退職したいけど、引き止められたらどうしよう」「退職の伝え方が分からない」
結論からいうと、円満退職の理想と、実際に起きることには差があります。僕自身、正社員だけで4回の退職を経験しています。歯科医院を2回、一般企業を2回辞め、それぞれ伝え方も結果も全く違いました。この記事では、その4つの実例と、そこから学んだことをお伝えします。
円満退職が難しいと言われる理由
歯科医院は少人数で運営されていることが多く、一人が抜けることの影響が大きいため、引き止めにあいやすい職場です。「人手不足だから」「もう少し頑張ってほしい」と言われ、なかなか意思を伝えきれない人も多いのではないでしょうか。
それに、患者さんや院長、スタッフへの申し訳なさから、「辞める」という言葉自体を切り出しにくいと感じる人も少なくないと思います。実際、僕自身もそうでした。歯科業界は思っている以上に狭く、退職後も、患者さんや関係者と思わぬところで再会することがあります。だからこそ、できる範囲で円満に進めておくに越したことはありません。
【1回目】新卒の歯科医院|引き止められ、事務長の助けで退職
新卒で勤めていた医院を辞めたいと伝えたとき、正直に「歯科衛生士としての自信がなく、他の仕事もしてみたい」と伝えました。しかし院長からは必死に引き止められ、「1年後にしてほしい」と言われました。
当時は院長と顔を合わせるのも気まずく、事務長さんに間に入ってもらいながら、別室で何度も話を聞いてもらっていました。院長と鉢合わせしないよう、タイミングを見計らってもらっていたような状態です。
そして院長本人から「1年後にしてほしい」と言われたときは、正直、怖くてその場では断りきれず、了承してしまいました。
当時の僕は、新卒時代の失敗や、当時の職場環境で自信をすっかりなくしてしまっていました。だからこそ、その場で言い返す力もなかったのだと思います。
ただ、そこで動いてくれたのが事務長さんでした。最終出勤日、事務長さんから「明日ハロワ行くぞ」と声をかけられ、翌日の休みにそのままハローワークへ行き、退職の手続きを進めてもらいました。院長には「1年後」と言ってしまった手前でしたが、事務長さんが実質的に間に入り、早期の退職を後押ししてくれました。
結果として、院長にも他のスタッフにも、あらためて顔を合わせることは一切ありませんでした。最後の挨拶らしい挨拶もなく、気づけば辞めていた、というのが正直なところです。今振り返ると、正攻法とは言えない辞め方だったと思いますが、事務長さんは、当時の僕を辞めさせてくれた恩師のような存在でした。あの助けがなければ、あのままずるずると1年間我慢していたかもしれません。
当時は本当に苦しい経験でしたが、あの新卒時代に叩き込まれた時間への意識、責任感、技術力は、今でも自分の土台になっています。
当時、歯科衛生士としての自信をなくしていた経緯については、こちらの記事でも詳しく書いています。
法律上、退職は2週間で成立する
「1年後にしてほしい」と言われた当時は知りませんでしたが、民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約は、退職の意思表示から2週間が経過すれば終了すると定められています。
これは就業規則で「1ヶ月前に申し出ること」「1年後にしてほしい」などと定められていても、法律上はこちらが優先されるとされています。もちろん、円満に進めるために引き継ぎ期間への配慮は必要ですが、「絶対に長期間拘束される」というわけではないと知っておくだけでも、心の余裕は変わってくると思います。
【2回目】2件目の歯科医院|電話で伝え、誰にも会わずに終えた退職
1回目の退職の後、GUPPY経由でスカウトをいただいたこともあり、「自分を必要としてくれる職場がある」と本当にうれしかったのを覚えています。それがきっかけで、次の歯科医院に就職しました。
院長やスタッフも、悪い人ではありませんでした。ただ、指導の圧力が強い、いわゆる体育会系の雰囲気があり、当時の僕の精神状態では、そこについていくことができませんでした。
今振り返ると、今の自分ならもう少し受け止められたかもしれません。でも、当時はそれだけ心に余裕がなかったのだと思います。
このときは、電話口で院長に退職の意思を伝えました。結果として、他のスタッフとは一度も会わないまま退職することになりました。
1回目のように激しい引き止めがあったわけではありませんが、対面で伝える勇気が持てず、電話という形を選んだのが正直なところです。悪い人たちではなかったからこそ、直接顔を合わせて伝えるのが余計に気まずく感じられました。
【3回目】一般企業(フォークリフト・事務)|上司に理解を求めて退職
その後、Indeed経由で入社したのが、フォークリフトや事務作業を行う一般企業でした。ここでは約1年ほど働きました。
仕事は丁寧にこなしたいタイプだったのですが、一緒に働いていたある人はスピード重視で、仕事に対する考え方がそもそも違いました。しかも、その人は僕以外にも何人かを退職に追い込んでいたようでした。
このときは、その人に直接何かを言うのではなく、上司にその状況を正直に伝えました。すると、事情を汲んでもらえて、円満に退職を受け入れてもらうことができました。
4つの退職の中で、この3回目が一番「相談して理解してもらえた」という感覚が強い退職だったと思います。
【4回目】一般企業(酒類配送)から歯科衛生士へ|素直に伝えるだけで済んだ退職
職業訓練で簿記3級を取得した後、ハローワーク経由で唯一内定をもらったのが酒類配送の会社でした(本来は事務職としての採用でしたが、人手不足で配送業務に異動になりました)。配送先のお客様から「ありがとう」と言ってもらえる経験を重ねる中で、少しずつ自信を取り戻していきました。
この職場を辞めて歯科衛生士に戻ることを決めたときは、状況が全く違いました。
「歯科衛生士をまたやりたくなった」と、素直に伝えただけで、特に大きな引き止めもなく退職することができました。
当時の職場は人手不足の状態でしたし、正直、辞めることを伝えてからは周囲の返事がそっけなくなるなど、態度で「良く思われていない」空気を感じました。それでも、これまでの経験があったからこそ、「職場の都合よりも自分の未来を優先していい」と迷わず思えたのが、一番大きな違いだったと思います。
退職届は約1ヶ月前に提出しました。その約1ヶ月のうち、約20日は有給休暇を消化し、残り約10日は通常どおり勤務しました。シフト制の職場だったので、「出勤する日は忙しい日に入れてください」と自分からお願いしていました。人手不足の中で申し訳ない気持ちはありましたが、「人手不足は会社全体で解決すべき課題であり、一人の社員が背負うものではない」という考えも持っていました。有給期間は、勉強や副業先でのアルバイトに充てて、次の職場への準備を進めていました。
周囲の反応もさまざまでした。少し態度が変わった人もいれば、今まで通り接してくれた人、「頑張れよ」と背中を押してくれた人もいました。全員が冷たくなるわけではなく、応援してくれる存在がいたことは、当時本当にありがたかったです。
今思うのは、退職する時点で、全員が自分のことをいいように思うわけではないということです。それは仕方のないことで、全員に納得してもらおうとしすぎなくていいのだと、今は感じています。自分を大切にしてくれる人を、こちらも大切にすればいい。それくらいの気持ちでいいのだと思います。
実は、今の職場に転職できたのも、副業として働かせてもらっていた縁がきっかけでした。副業を始めて2ヶ月ほど経った頃、院長から呼び出され、「正社員にならないか」と声をかけてもらったのです。当時、新卒時代の先輩が副業のアルバイトとして誘ってくれていたこともあり、副業にも一生懸命取り組んでいました。そうした積み重ねがつながって、今の職場への転職が実現したのだと思います。この経緯についてはこちらの記事でも詳しく書いています。
4つの退職を比べてみる
同じ「退職」でも、伝え方も結果もまったく違いました。振り返って一覧にしてみると、こうなります。
| 回数 | 職場 | 伝え方 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 新卒歯科医院 | 対面で伝えるも引き止められ了承 | 事務長の助けで実質離脱、誰にも会わず終了 |
| 2回目 | 2件目の歯科医院 | 電話で院長に伝えた | スタッフには一度も会わず終了 |
| 3回目 | 一般企業(フォークリフト・事務) | 上司に状況を説明し理解を求めた | 円満に受け入れられた |
| 4回目 | 一般企業(酒類配送) | 素直に伝えるだけ | 大きな引き止めなし |
こうして並べてみると、「対面で伝えるのが怖くて電話にした」経験も、「上司に相談して理解を得られた」経験も、どちらも自分にとって必要なプロセスだったのだと思います。無理に一つのやり方にこだわる必要はなく、そのときの自分に合った伝え方を選べばいいのだと感じています。
そしてもう一つ気づいたのは、退職の伝え方そのものが、回を重ねるごとに成長していたということです。1回目は引き止められてその場で言い返せず、事務長さんに助けてもらう形になりました。2回目は対面が怖くて電話を選びました。3回目は、本人にではなく上司に相談するという形で、初めて自分から働きかけて理解を得ることができました。そして4回目は、誰の力も借りずに、素直に自分の言葉で伝えるだけで済みました。
逃げるように辞めていた1回目から、自分の意思で向き合えるようになった4回目まで。退職の伝え方は、そのときの自分の状態を映す鏡のようなものだったのかもしれません。
円満退職のためにできること
伝えるタイミングを選ぶ
繁忙期の直前は避け、できるだけ余裕を持って伝えるのが理想です。繁忙期と時期が重なりそうな場合は、3ヶ月前など、通常より早めに伝えておくのもおすすめです。院長や上長が忙しくしているタイミングを避けるだけでも、話の受け止められ方は変わってきます。
曖昧にせず、意思を明確に伝える
「辞めようか迷っている」ではなく、「◯月末で退職します」とはっきり伝えることが大切です。曖昧な伝え方は、相談だと受け取られて話が進まなくなることがあります。
引き継ぎと感謝を忘れない
どんな職場であっても、最後まで責任を持って引き継ぎを行い、お世話になった感謝を伝えることが、結果的に自分自身の気持ちの整理にもつながります。
引き止めにあったときの考え方
強い引き止めにあうと、自分の意思がぐらついてしまうこともあると思います。そういうときこそ、「なぜ辞めたいと思ったのか」を思い出すことが大切です。
一人で抱え込まず、家族や友人、あるいは信頼できる先輩や第三者に相談することも、意思を保つ助けになります。僕自身、1回目の退職では事務長さん、3回目の退職では上司という第三者の存在が、退職を後押ししてくれました。
転職を考えるうえで、辞める前に整理しておきたいことについては、こちらの記事でもまとめています。
よくある質問
退職の意思を伝えたら、必ず引き止められますか?
職場によります。僕自身、1回目の退職では激しく引き止められましたが、4回目の退職では特に大きな引き止めもなく、素直に伝えるだけで済みました。
「1年後にしてほしい」と言われた場合、それに従う必要はありますか?
法律上は、退職の意思表示から2週間で雇用契約は終了するとされています(民法627条1項)。ただし円満に進めるためにも、可能な範囲で引き継ぎ期間への配慮はしておくと安心です。
対面で伝えるのが怖い場合、電話で伝えてもいいですか?
状況によってはありだと思います。僕自身、2件目の歯科医院を辞めるときは電話で院長に伝えました。理想は対面ですが、それが難しいと感じる場合は、無理をしすぎないことも大切です。
職場に問題のある人がいて辞めたい場合、どう伝えればいいですか?
本人に直接ではなく、上司など第三者に状況を正直に伝えるのも一つの方法です。僕自身、一般企業を辞めるときにこの方法で理解を得て、円満に退職することができました。
どうしても自分では言い出せない場合、退職代行サービスを使ってもいいですか?
僕自身は退職代行を使ったことはありませんが、1回目の退職で事務長さんが間に入って助けてくれたことは、ある意味で個人的な「退職代行」のようなものだったと思っています。だから、退職代行という選択肢自体を否定するつもりはありません。
ちゃんと自分で挨拶やお礼ができるのであれば、それに越したことはありませんし、費用もかかります。それでも、逃げ道がなかったり、職場に行きたくなくなってしまったりした場合は、使うのも一つの選択肢としてアリだと思います。労働組合が対応するタイプや、弁護士が対応するタイプなどさまざまな種類があるので、自分の状況に合わせて検討してみてください。
まとめ
円満退職の理想と、実際に起きることには差があります。僕自身、正社員だけで4回の退職を経験しましたが、そのすべてで伝え方も結果も違いました。激しい引き止めにあって事務長さんの助けを借りたこともあれば、電話で伝えるだけで済んだこともあり、上司に相談して理解を得られたこともありました。振り返ってみると、その伝え方は回を重ねるごとに、少しずつ「逃げる」から「向き合う」へと変わっていったように思います。
この4つの経験から言えるのは、辞める意思ははっきり伝えること、そして職場の事情を自分一人で抱え込みすぎないことです。すぐに辞めるのがいいわけではありませんが、心や体が壊れてしまう前に、自分自身を大切にしてほしいと思います。
ただ、退職したこと自体を後悔したことは一度もありません。強いて心残りを挙げるなら、新卒時代は2年目の途中で辞めたため、後輩に最後の挨拶ができなかったことくらいです。それでも、あの厳しい新卒時代の職場で身についた時間への意識、責任感、技術力は、今の自分を支えてくれています。だから、あの職場には感謝している部分もあります。
歯科医院→歯科医院→一般企業→一般企業→歯科衛生士、と振り返ると遠回りしたように見えるかもしれません。それでも今は、そのすべてが必要な経験だったと思っています。退職はゴールではなく、自分に合う環境を見つけるためのスタートになることもあります。辞めた後の人生の方が、ずっと長いのですから。
一般企業を経験したからこそ気づいた、歯科衛生士という仕事の価値については、こちらの記事でも詳しく書いています。






