「エアフローって聞いたことはあるけど、普通のクリーニングと何が違うの?」
結論からいうと、エアフローは水・空気・専用パウダーをジェット噴射して、バイオフィルムや着色を吹き飛ばすクリーニング方法です。歯を削るわけではなく、汚れだけを狙ってやさしく除去します。GBT(Guided Biofilm Therapy)という予防歯科の考え方の中心にもなっている処置です。
この記事では、現役歯科衛生士の僕が、エアフローの仕組みからパウダーの違い、保険と自費の考え方まで、査読付き論文やメーカー資料、そして実際に複数の歯科医院で使ってきた経験を交えて詳しく解説します。
エアフローとは
患者さんには「歯の高圧洗浄機みたいなものですよ」と説明することが多いです。ただ、これだけだと歯を傷つけそうなイメージを持たれることもあるので、「歯を削るほど強いものではなく、水・空気・細かいパウダーで汚れだけをやさしく吹き飛ばすクリーニングです」と補足するようにしています。
エアフローのメリット
- 着色(ステイン)除去
- バイオフィルム除去
- パウダーによる、歯にやさしいクリーニング
- 短時間で完了
- 矯正装置・インプラントにも対応
- パウダーの種類によっては歯周ポケット内にも対応
現場での実感としては、ポリッシングでは届きにくい隣接面や裂溝まで清掃しやすいと感じています。また知覚過敏がある患者さんでも、超音波スケーラーより刺激が少ないと感じる方が多い印象で、実際に知覚過敏が強く超音波が苦手な患者さんへ提案することもあります。
この感覚は研究でも裏付けられています。2022年に発表されたスプリットマウス法のランダム化比較試験では、従来の超音波スケーリング+研磨材を使った群に比べ、エアポリッシングを併用した群の方が明確に不快感が少なかったと報告されています(痛みスコア3以上と回答した割合が、従来法50.2%に対しエアポリッシング併用群は14.6%)。別の12ヶ月間の追跡研究でも、エリスリトールを使ったエアポリッシングは対照群より有意に不快感が少なかったという結果が出ています。
エアフローのデメリット・注意点
- 自費診療になることが多い
- 歯石そのものは除去できない(スケーリングが別途必要)
- 導入している医院がまだ少ない
- 呼吸器疾患がある方は禁忌・要相談
費用相場は、範囲や組み合わせによって1回あたり3,000〜10,000円程度が目安とされています。歯石については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
エアフローが受けられない・注意が必要な方
エアフローは体にやさしいクリーニングですが、誰でも無条件に受けられるわけではありません。
| 区分 | 該当する方 |
|---|---|
| 禁忌 | ナトリウム摂取制限が必要な方(炭酸水素ナトリウム使用時)/呼吸器系に重度の疾患がある方(喘息・慢性気管支炎等)/全身的な疾患・障害がある方 |
| 要注意 | 鼻呼吸が困難な方/口腔内に傷や異常がある方/口腔内に出血・炎症がある方/アレルギー体質の方 |
妊娠中の方については、縁上(歯ぐきより上)のケアは絶対禁忌ではありませんが、縁下(歯ぐきの中)は慎重な判断が必要です。糖尿病・免疫不全・感染性心内膜炎ハイリスクの方なども、担当の歯科医師と相談のうえで進めることになります。
まれに報告されている合併症「皮下気腫」について
エアフローは基本的に安全性の高い処置ですが、「皮下気腫」という稀な合併症が国内外の症例報告で確認されています。これは、圧縮された空気が粘膜の傷などから組織の下に入り込み、頬や首まわりが腫れる状態です。
特に、歯周ポケット内に入れるサブジンジバルノズルを使用した場合や、パウダーと機器のメーカーが異なる組み合わせで使用した場合に報告例が見られます。多くは数日で自然に軽快しますが、まれに首や胸の方まで空気が広がる重い症例も報告されているため、頻度は非常に低いものの知っておいていただきたい情報です。
もし施術後に急に頬や首が腫れる、皮膚を押すとプツプツとした違和感がある、といった症状が出た場合は、すぐに担当の歯科医院に連絡してください。
エアフローとポリッシング/GBTという考え方
昔は「磨いて落とす」のが歯面清掃の基本でした。現在主流になりつつあるGBTでは、「吹き飛ばして落とす」という発想に変わってきています。
僕の勤務先では、普段のポリッシングにコンクール クリーニングジェル〈PMTC〉を使っています。「削り落とす」研磨剤に頼らず、高機能シリカの吸着力で汚れを落とす設計のジェルです。
使い方としては、ラバーカップを歯面に押し付けすぎず、カップの内面でジェルを馴染ませながら低速(1,000〜1,500回転程度)で清掃するのが基本です。プロフィーブラシとの併用も可能で、隣接面や叢生部など狭い部分の清掃にも使いやすい設計です。一次研磨から艶出し仕上げまで1本・1工程で完結するため、二次研磨が不要なのも現場では助かるポイントです。
ただし、家庭で使う場合は注意が必要です。メーカーの注意書きにも「強く磨いたり毎日使ったりすると歯が削れてしまうため、週1回程度の使用にしてください」と明記されています。毎日の歯磨き粉としてではなく、月数回のスペシャルケアとして取り入れるのが安全な使い方です。
エアフロー後の研磨は必要?
これはメーカーによって考え方が違います。
| メーカー・製品 | エアフロー後の研磨 |
|---|---|
| EMS AIRFLOW PLUS | 研磨不要 |
| Lunos Gentle Clean | 研磨不要 |
| Lunos Perio Combi | 明記なし |
| NSK | 明記なし |
つまり、パウダーや医院のコンセプトによって、仕上げの有無は変わるということです。僕の勤務先では、エアフロー(Flash Pearl)の後に必要に応じてリナメルで仕上げる流れを取っています。患者さんが感じる「ツルツル」は、エアフロー本体と仕上げ研磨、両方の効果だと思っています。
リナメルは研磨剤を使わず、歯の表面のミクロの傷をハイドロキシアパタイトで補修することで、なめらかな状態を保つのが特徴です。同じ考え方の商品が家庭用としても市販されているので、通院の合間のセルフケアとして取り入れるのも一つの方法です。
コンクールとリナメル、何が違う?
どちらも歯を傷つけにくい設計ですが、役割も使用頻度もまったく違います。
| コンクール クリーニングジェル〈PMTC〉 | リナメル | |
|---|---|---|
| 本来の用途 | 通常のポリッシング(一次研磨〜艶出しまで1本で完結) | PMTC・エアフロー・ホワイトニング後の仕上げ |
| 研磨剤 | サンゴパウダー配合(軽度の研磨効果あり) | 研磨目的成分無配合 |
| 家庭での使用頻度目安 | 週1回程度(毎日はNG) | 日常使いに適した設計 |
| 位置づけ | 「削らず吸着して落とす」スペシャルケア | 「傷を埋めてなめらかにする」メンテナンスケア |
普段のポリッシング(コンクール)と、エアフロー・ホワイトニング後の仕上げ(リナメル)、場面によって使い分けているのが実際のところです。
パウダーの主成分
| パウダー | 特徴 |
|---|---|
| 炭酸水素ナトリウム(重曹) | 着色除去、縁上専用(根面には不向き) |
| 炭酸カルシウム(Flash Pearl等) | 天然歯、着色除去 |
| グリシン | アミノ酸、歯周病、縁下対応 |
| エリスリトール | GBT主流、歯周病、インプラント、矯正 |
| トレハロース | Lunos製品、味が良い、患者満足度が高い |
粒径比較
パウダーの粒子の大きさは、エリスリトール(約14μm)<グリシン(約25μm)<トレハロース(約30μm前後)<重曹(約40μm)<Flash Pearl(約54μm)の順に大きくなります。ただし粒径だけでなく、粒子の形状・硬さ・水溶性も清掃効果や歯への影響に関わってきます。
パウダーの体感Tier(現役DHの使用経験ベース)
ここからは、僕が実際に複数の医院で使ってみた体感ベースの評価です。エビデンスというより、あくまで一人の歯科衛生士の感想として参考にしてください。
| Tier | パウダー |
|---|---|
| S | エリスリトール |
| A | グリシン/トレハロース |
| B | Flash Pearl |
| C | 炭酸水素ナトリウム |
メーカー比較
| メーカー | 特徴 |
|---|---|
| EMS | GBTの提唱元、世界標準、総合力No.1 |
| NSK | Flash Pearl、Perio Mate |
| Lunos | トレハロース、快適性重視 |
| モリタ | PMTC+、国内での普及率が高い |
僕の勤務先ではNSKとLunosを使用し、ハノワで訪れた医院ではEMSとモリタを使用した経験があります。体感としては、Flash Pearlが一番着色を落としやすい印象で、EMSも十分に落ちる印象でした。持ちやすさで言うとNSK、EMSは少し大きい印象です。どちらもユニット接続型で、据え置き型よりパワーは控えめですが、臨床では十分な清掃効果を感じています。
保険診療と自費診療の違い
保険診療では、歯周病検査→スケーリング→歯面清掃→SPTという算定ルールが決まっています。患者さんの希望だけで自由に同じ処置を繰り返すことはできません。
一方、自費のエアフローであれば、保険の算定ルールに縛られず、患者さんに合わせて柔軟にメインテナンスできるというメリットがあります。ただし、まれに「か強診(かかりつけ歯科医機能強化型診療所)」の認定を受けた医院では、保険内でエアフローを含むクリーニングに対応しているケースもあるようです。
ハノワで複数医院を経験して学んだこと
ハノワでスポット勤務を経験する中で気づいたのは、医院によってエアフローに対する考え方が全然違うということです。
- 着色重視の医院 → Flash Pearlなどを中心に使用
- 歯周病重視の医院 → エリスリトール中心
中にはボトルキープ制度を採用している医院もありました。施術3,300円、ボトル(パウダー等)6,600円という料金設定で、院長先生は「保険算定ルールではなく、本当に必要なタイミングでメインテナンスしたい」という考えを話してくれました。ハノワでの経験については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
エアフローは歯を削る?着色は付きにくくなる?
研究では、重曹は象牙質の表面粗さを最大4.17μm増加させるのに対し、エリスリトールは平均0.17μmとほとんど変化がないという結果が報告されています。これが、重曹が根面(露出した象牙質)への使用に適さないとされる理由です。
「着色が付きにくくなるか」については、正直なところまだはっきり分かっていません。エリスリトールによる表面のわずかな粗さの変化が、実際に着色の再付着スピードに影響するかどうかは、研究でも「まだ明らかになっていない」とされています。「絶対に着色しにくくなる」と断定するのは避けたいところです。
実際に受ける流れ
初めて受ける方にとっては、どんな流れで進むのか分からないと不安になりますよね。一般的な流れは次の通りです。
- カウンセリング
- 必要に応じて染め出し(プラークの染色確認)
- エアフロー施術
- 必要に応じて超音波スケーリング・ポリッシング
- ビフォーアフター写真での説明
- セルフケア指導
着色は写真での比較、プラークは染め出しでの比較を、患者さんに説明することが多いです。意識の高い患者さんは、舌感や写真だけで違いに気付くこともよくあります(笑)
施術直後はコーヒー・お茶・タバコを控えることをおすすめしています。着色しやすい状態になっているためです。歯周病重視の患者さんには、自宅ケアとしてSPTジェルのような歯周病ケア専用アイテムを案内することもあります。
エアフローは誰におすすめ?
おすすめな人:コーヒー・紅茶・ワインをよく飲む方、喫煙する方、矯正中・インプラントをしている方、知覚過敏がある方、保険のクリーニングでは物足りないと感じる方
あまり勧めない人:元々かなりきれいな口腔内で、着色も少なくセルフケアが十分できている方
定期検診のタイミングで相談してみるのもおすすめです。頻度については、こちらの記事も参考にしてください。
着色そのものについては、こちらの記事も参考にしてください。
知覚過敏が気になる方は、こちらの記事もご覧ください。
一番伝えたいこと
ハノワで複数医院を経験して分かったのは、エアフローは「機械」で選ぶものではないということです。医院によって、着色重視・歯周病重視・GBT・PMTCなど、考え方はまったく違います。
だから患者さんには、「どのメーカーか」よりも「どんな考え方でエアフローを提供している医院か」を知ってほしいと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q. エアフローはどれくらいの頻度で受ければいいですか?
A. 一般的には3〜6ヶ月に1回が目安とされています。着色が気になりやすい方は、もう少し短い間隔で相談してみるのもおすすめです。
Q. エアフローはエステサロンでも受けられますか?
A. 受けられません。エアフローは歯科医師や歯科衛生士など、資格を持つ者が行う医療行為のため、歯科医院でのみ受けられます。
Q. エアフローで歯は白くなりますか?
A. 着色除去による見た目の変化はありますが、歯そのものを白くするホワイトニング効果とは異なります。歯本来の色を変えたい場合は、ホワイトニングが選択肢になります。
Q. 痛みはありますか?
A. 研究でも従来の超音波スケーリングより不快感が少ないと報告されており、基本的には痛みの少ない処置です。ただし知覚過敏がある場合や、パウダーが歯肉に当たった場合に瞬間的な刺激を感じることがあります。
Q. 保険は使えますか?
A. 多くの医院では自費診療になります。ただし「か強診」の認定を受けた医院など、一部では保険内での対応が可能なケースもあります。詳しくは通院先に確認してみてください。
Q. 子どもでも受けられますか?
A. 医院によって対応は異なります。乳歯や生えたての永久歯への影響を考慮し、パウダーの種類や圧を調整して行うケースが多いです。気になる場合は事前に相談することをおすすめします。
Q. 皮下気腫が心配です。危険な処置なのでしょうか?
A. 皮下気腫は非常に稀な合併症で、過度に心配する必要はありません。ただし、施術後に頬や首の急な腫れなど気になる症状が出た場合は、我慢せずすぐに歯科医院に連絡してください。
まとめ
- エアフローは水・空気・パウダーで汚れを吹き飛ばすクリーニングで、GBTの中心的な処置
- 着色・バイオフィルム除去に優れ、研究でも従来法より不快感が少ないと報告されている
- 呼吸器疾患がある方など、受けられない・注意が必要なケースもある
- 皮下気腫という稀な合併症も報告されており、正しい知識を持っておくと安心
- パウダーの種類によって歯への影響は大きく異なり、重曹は根面には不向き
- 大切なのは「どのメーカーか」より「どんな考え方で提供している医院か」
エアフローは、正しく理解して受ければ、日々のセルフケアだけでは届かない部分までケアできる心強い選択肢です。この記事が、エアフローを検討している方や、これから受けてみようと思っている方の参考になれば嬉しいです。
参考・引用
- Mensi et al. (2022) International Journal of Dental Hygiene|エリスリトールエアポリッシングと超音波スケーリングの比較RCT
- Ulvik et al. (2021) BMC Oral Health|エリスリトールエアポリッシングの12ヶ月間RCT
- Kruse et al. (2025) International Journal of Dental Hygiene|エリスリトールエアポリッシングが露出根面に与える影響のRCT
- MDPI (2026)|歯周治療後の皮下気腫に関する文献レビュー
- ウエルテック株式会社|コンクール クリーニングジェル〈PMTC〉製品情報
- 株式会社オーラルケア|リナメル トリートメントペースト製品情報
- エアフローの禁忌・注意事項に関する歯科用語解説






